しばらく聞いてなかった、あのネコの声がした。
早朝の5時だ。
「あのネコの声」
と言われても、なんのことだかわからないだろうから、少しだけ説明しておくと、おっさんが叫んでいるような声で鳴く?叫ぶ?ネコがいる。
◆◆◆
このネコは、屋根の上にいたり、ブロック塀をのそりのそりと歩いていたりする。
茶色い体をしている。
とても態度がデカく、ふてぶてしいのだった。
だから、ボクは『ブッチ』と名付けている。
もう一匹、同じようなネコがいる。
なんだよ、またブッチが叫んでるな、と思って見てみたら、違うネコがいたことがあった。
大きな銀色のネコだった。
だからボクは、『銀次』とよぶことにした。
どっちのネコももし人間だったら、ボクは友達にはなれないだろう。
きっと映画に出てきそうなヤクザな人たちに違いない。
◆◆◆
そして話を戻すと。
早朝の5時に、おっさんのような叫び声が聞こえた。当然目が覚める。
かなりでかい叫び声。
迫力もある。
近所の人びとにもちゃんと聞こえているはず。
ブッチか銀次のどっちかだ。
あるいは両方だ。
ネコはボクの家の屋根にいるので、ご近所の人びとは、ボクが叫んでいると思うかもしれない。
それだけはゴメンだ。
ネコたちに
「やかましい!」
と言おうと思った。
まずは窓を開けたり閉めたりして威圧したけれど、ぜんぜんこちらを見てくれない。
なんなら気づいてないのかもしれない。
石でも投げてみようかと思ったけれど、その石も見当たらない。
水鉄砲でもあればいいんだけれど。
だからもうあきらめた。
あ、そうだ。
こんど機関銃のような水鉄砲でも街に見にいってみよう。
◆◆◆
屋根にいたのはブッチだった。
ブッチは誰かに向かって「おっさんのような叫び」をしていた。
その誰かは、ボクの場所からはちょうど見えなかった。
ひょっとしたら銀次かもしれない。
あるいは新たな登場人物かもしれない。
おっさんの叫びを止めるのは不可能だとわかったので、もう一回寝ようとした。
叫びは聞こえ続けていたが、すぐに眠ることができた。
おっさんの叫びを聞きながら眠るのも、悪くないな、と思った。
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